「わたしのともしび」で、最後の曲の頃、これから歌おうとした時、菜月さんの娘さんがぐずって、「大人、きらい!」と連呼しはじめた。
その子は2年前から毎年来てくれている。2年前は旧トウヤマ邸で、まだ小さくて、抱っこ紐の中にいて、でも神妙に音楽を聴いて、1度は、まるでコーラスみたいに、声を上げてくれた。
昨年も、この女の子が突然歌ってくれた。即興の時、「あー」の声がわたしと同時に出て重なった。びっくりして、うれしかった。2年前以上に完璧なコーラスだった。どちらも動画にも残っている。
その子が、今年も来てくれてて、だけどライブ前、こうして大きくなってきたら、長丁場は退屈かもなあ、退屈したらかわいそうだなあ、と思った。うまく言えなかったけど、本人にも伝えた。もし歌いたくなったら、歌ってね、も伝えた。
演奏中、目をつむっていたし、はっきり見ていないけど、その子は最後の曲の1曲前の時、近くへ来てマイクスタンドをカンカンと叩こうとした。そばにいた人が咄嗟に静止して、もしかしたらそれであの子は悲しくなったのかもしれない。 それまでの疲れとかが爆発したのかもしれない。
その止めてくれた手ももちろん良いもので、(ライブと、女の子と、両方を守ろうとした)あたたかいもので、カンカン鳴らそうとした女の子の手も良かった。参加しよう、って、少し笑ってた気がする。
「宇宙の使者」という曲の途中だったから、それをすくいあげていっしょに歌う、とかもできなかった。一瞬、ごめん、と思ったけど、意に介さず歌うべきだ、と感じて、何もなかったみたいに歌い続けた。
そのあとの、最後の1曲に、「猫が葉っぱを見ていた」を歌った。もう1曲やりたい、と思って、やるならこの曲をやりたい、と思った。
京都でもこの曲を最後に突然やった。ほとんどライブでやってない曲。ザンパノの目の前が線路と踏切だったから、この曲のことを思い出した。(ハライソみたいだと思った。)
たしか2013年頃に作った。
「踏切の音だけが響く」という歌詞は、もしかしたらハライソを思って書いたのかも。ハライソに行くようになった頃だから。
その頃、十日市に住んでいて、はるは2歳か3歳で、真冬の寒い夜、2人でアパートを出た時、その寒さにはるが、
「わー、氷水みたいー」と言った。
こおりみずって、いい表現だなあ…と思って、それを歌詞に入れた。
京都の時も、この日のハライソも、その時みたいには寒くはなかったけど、この歌はふさわしい気がした。
ボソボソとその説明をしている間、女の子はずっと、「大人、きらい!大人、きらい!」と言ってた。
思わず、「わかるよ。うちも、大人、きらい」と言ってしまった。「すごくわかる。」って。独り言みたいに。
だけど、言葉で外へ出ていかなかったけど、ほんとは、いっぱい、伝えたいことがあった。
女の子の叫ぶ「大人、きらい!」は、まるで、「お母さん、大好き!」という言葉にも聞こえた。お母さんの敵はきらい!にも聞こえた。だから、お母さんを大好きでいてね、とか、そんなことも思った。
大人をゆるしてあげてね、も思った。わたしも大人が嫌い、でも、その「大人」っていろんな意味があるよね、全部が「きらい」なわけじゃないのに、薄っぺらく同調して聞こえたらごめんよ、それと、この場合の「きらい」は、自分に向けられているよ。とかも
思いながら、だけど何も言えず、最後の曲を歌い始めた。
ずっと、「大人、きらい!大人、きらい!」が聞こえていて、繰り返されるからもはや演奏みたいだった。
間奏に入った時、お!今こそ「大人、きらい!」がソロみたいにうまく合うかも、と思って待った時、その声はもうやんでいた。
あれは、我慢してくれたのかな、それとも、自分で気が済んでやめたのかな、
わからないけど、その時、その声がやんだことで、ものすごく静かになった気がした。きゅーーっと、森の奥に行ったみたいに、静まり返った気がした。
それがまさに、真冬の夜空の下みたいで、すごく心が落ち着いた。
ライブが終わった後、その子が帰る時、「さっきはごめんね(うまく対話ができなくて)」と伝えたけど、もちろんだけど女の子はキョトンとしていた。それから、「カンカンって鳴らしてくれてありがとう。きこえたよ」
と伝えた。その子はやっぱり、なんの話?という顔をしていたかも。夜遅くまでありがとう。階段を降りていく姿を見送った。ちょっと面倒くさそうに「おやすみー」と言って、帰って行った。
猫が葉っぱを見ていた
すみっこで揺られているのは
きみがまだ見たことのない物語
気付かないよ
走り出す 荷物は置き去り
改札に置いて行くよ
取りにおいで
あとでいいよ
踏切の音だけが響く
月は ほら
氷水の中 みたいに
浮かんでるよ
裏山を散歩してたら
猫が風を見てた
葉っぱを見ていた
動かないよ
気付かないよ
(歌詞を書こうとして思い出した。
ライブの時、2行目の「きみがまだ出会ったことのない人」と歌うところを、動揺してたのか間違えて、「きみがまだ見たことの…」と歌ってしまった。「見たことのない…」と歌うと「人」では音が足りないから、咄嗟に「物語」に替えて歌った。だけど、物語でもいいな…と歌いながら思った。)
2026年1月16日
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