2020年10月17日

はると、寝る前少し
原のおばちゃんのこと話した。

はる、今日、ずっと、
原のおばちゃんの手をさわったり、おでこなでたり、
慈愛の目でずっとそばにいた。

おばちゃんがしきりに虚空に手を動かしていて、
時々拝むように胸の上や顎の下で組むのを見て、
手話の「ありがとう」の意味みたいと小声で話したりした。
おばちゃんが顎に手を当てると、今のは
「しあわせ」なんじゃないかと目で合図したり。

小声というより、目くばせか。
病室に入ってすぐは、声を出すと泣き声になりそうで、声を出せなかった。
はるも同じ気持ちなのがわかった。

おばちゃんは、ほんとうは何を考えていて
どんな具合か、どんな感覚か、
まったくわからない。
わからないけど、
心の中でたくさん呼びかけた。
はるも同じようにしているように見えた。

一度、おばちゃん、
はるの呼びかけに
顔を歪ませて笑顔をしてくれた気がする。

痩せて、別人のようになったおばちゃんは、
わたしのおばあちゃんに似てた。
他人で、全然似てないのに。
入れ歯をはずしているからか。
ものすごく痩せたからか。
おばちゃん、どんな顔だったっけ、と何度か思い出そうとした。

おばちゃんはずっと、
どこということもないけど
なんとなく苦しい、というような、
落ち着かない様子に見えた。

尿が出ないことで毒素が全身に溜まって来ているという医師の説明聞いた。
その負担にいつ身体が耐えられなくなるかわからない。
これからはいつでも面会していいと言われた。

だから尿が出るように祈った。
皮膚が薄くなってるし、
足の裏はむくんで腫れているし、
ひどい刺激にならないようにおそるおそるだけど、
おしっこ出ろ、おしっこ出ろ、
いたいのとんでけ、言いながら
足の裏をもんだ。

身体が楽になって、どこも痛くなくて、
おだやかに呼吸できて、
ほっとして、思うように過ごせて、
息を吐くように死ぬのがいいと願った


91年も生きている、なんと丈夫に生んでもらったんだろう、
父の姉、すごく年の離れた1番上の姉、
たくさんの兄弟の中で、1番長く生きている。
丈夫な身体さん、ありがとう
すごいな、おばちゃん、すごい
と、足をさわりながら思った。
かなしいというより、すばらしい、という気持ちで涙が出た。


はるは、寝る前、
「まだ死なんよ」と言ってくれた。
そうだよね。

天井を見ながら、
「燃やされちゃうの?」
と言った。

うん。動かなくなったら、もう使えないから、
いれものだからね、
中身は死なない。
とわたしは言った。


電気を消した暗がりの中で、
「ほんとは、天国も地獄もなくて、
その瞬間に消えるのかもね、
その瞬間に、生まれ変わるのかも」
と、はるが言った。

それから、
「いったい、ここにいる人は、
どこに行くんだろう、
ってね、…」
と言って、
「夢の中の人に、なる…(のかも)」
と、かすかに笑って、はるは寝た。

わたしは、
ぼんやりと考えているうち、
何に対してか分からず涙が出た。

泣いていると、その泣き方が、
小学生の頃、おばちゃんが
だんなさんが単身赴任で一人暮らしで
ひとりぼっちのおばちゃんは
今頃なにしてるだろう寂しくないかと勝手に心配して
「おばちゃん、おばちゃん」言いながら泣いた日と
まったく変わらない涙に思えた。


 




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